あ、た、な、ら

その療育施設で、20歳はこえてるだろうという青年と廊下で あった。
非常にハンサムだ。が、動きはぎこちなく、しゃべらないようだ。

「あ、た、な、ら」と でっかい声で、おとな一人ひとりにいい、握手して去っていく。

わたしのほうに向かってきたとき、
最初は(どうすればいいの!?)と正直面食らったが、
「あ、た、な、ら、」と握手してすぐ去る彼に、悪い気持ちはぜんぜんしなかった。

別の日に、また、彼がわたしのほうに歩いてきたとき、
「あ、た、な、ら」といったときに、
「ありがとうございました。さようなら」という意味だということがわかった。
そしてしっかり握りかえそうとすると 彼はするっと去った。

同じ日に別の場所であっても、握手のため手を出すと、無視された。
一日に一回なんだな。

別の 言葉のない自閉症のこどもさんが、そおっと寄ってきたり、
手に軽くチュウしてくれた事もあった。
「すみません(わたしに)!だめでしょう(こどもに)!」
と親御さんは言われたが、わたしにとっては別にダメでも、謝ってもらう必要もなかった。
(もちろん、1号が見ず知らずの人にチュウしたら注意するのがわたしの仕事だろう)