あなたの自由、他人の自由、人の自由が僕を苦しめる

昨年の今頃は1号の荒れはすごかった。
すごかった、とは いっても、暴れまわるとかではなく、
本人がひたすら気にして どんどん自分に向かって荒れていくという感じ。

たとえば。

知的障害のあるNちゃんが、1号のことを好いてくれて、
とにかくべったりだったらしい。
腕を取り、離してくれず、とにかくいつもくっついている。
朝は教室で待っているし、休み時間も、1号は図書室で本を見たいのに、
その本を取って 腕を取り、自分の教室に連れて行く感じ。
1号が 何度言っても、「ウン」とは、いってくれるがやめては、くれない。
「言ってるのにやめてくれない」というのがさらに1号にとっては追い詰められた気分だったらしい。

1号は職員室や校長室に泣きながら逃げ込むのだけど、
先生たちも、「もてる男はつらいね〜」と ほほえましく笑って
あまり真剣にとりあってくれないらしい。

ようちえんでも、まあ似たようなことはあったけど、
しつこさは ここまではない。
やめてと数回言えば、ごめんといって手を離してもらえた。

Nちゃんにしてみれば、なかなか、ほかの子のペースともあわず、対等に付き合える関係がほかになく、
寂しい思いがあるので、余計1号にこだわってしまう、のは、見ていてよくわかる。
誰も悪くはないのにどうしようもない。


1号はだんだんおかしくなり、ちらっとNチャンの姿が見えただけでもこわばり、
家でも強迫的にNちゃんの話しかしなくなった。

Nちゃんが遠くから、「おはよう」というだけでも、
わざわざNちゃんに近づき、「Nちゃん来ないでしつこくしないで僕はやめて欲しいNちゃんは警察に捕まるNちゃんはしつこいやめてくれないNちゃんついてこないで、ぼくはぜったいNちゃんとはあそぶのはいやだ、、、、」
といって泣き出すようになった。
追いかけていってわざわざ言うのだ。客観的に見たらしつこいのは1号だ。

すぐに腹が痛くなったり頭が痛くなったりして 学校を休んだ。

わたしも、どうしたものかぜんぜんわからず、極端に怖い発言をする、とらわれる1号がかわいそうにも、怖くも思えた。
もちろん、1号は、おきてる間中、強迫的にNちゃんの話をしたので
わたしもありとあらゆる思いつくことを試したし、
先生やNちゃんのお母さんともずいぶん話したし、
1号を 違う学級に入れてもらったり、電話相談などもしてみたが
どうにもならなかった。

「ぼくはNちゃんが好きだがしつこいのはいやだ。Nちゃんは、僕を好きで、しつこくしてしまう、、、むかしはNちゃんはかわいかった。
しつこいのをやめてくれたらまた昔みたいに好きになるのに」


たぶん先生たちが繰り返し繰り返しNちゃんに言ってくれたのだと思うけど、
数ヶ月かかって少しづつ、Nちゃんの「1号熱」はひいていった。
率直に言うと、別の子が好きになったらしい。

今にして思うと、1号は、このことで、
「他人は自分の思い通りにはならないことがある」
「NちゃんにはNちゃんの自由がある」
と思ったようだ。自分が、「やめて」という自由もあるし、相手には「やめない自由」があると。そして、Nちゃんの「やめない自由」が僕を苦しめたと。


それから一年近く経ち、わたしもすっかりNちゃんのことを忘れていたら、

今日、ふと、「Nちゃんは僕のこと忘れたみたい。ほかの子にしつこくしてるんだよ。
それで ばかっていわれたり、叩かれたりもしてるよ。
ぼく、ぜったいNチャンはうちに来ないでって言ってしまったけど、
たまにはNちゃんと遊んでもいいと思ってるんだよ。」
といいだした。遠くのほうで、Nちゃんが一人で帰ってるのを見て言ったらしい。

「じゃあ、まってNちゃんにそういえば良いんじゃない」

1号は、Nちゃんを待って、
「Nちゃん。今度 来たかったらうちにこらせてあげる」
と、恩着せがましく言った。


Nちゃんは、「うん〜」と あっさり行ってしまった、、、、