彼の世界

数人のお母さんと、
自閉症のあるお子さんを見て(脱走しないように見張って)いた。


そのこは、絶えずはしりまわる足音は轟音、ドアをバッタンバッタンと開け閉め、
トイレの水を絶えず流し、スイッチをつけ消し、
テレビの音量を 爆音まであげたり 下げたり
だれかれかまわずぴしゃぴしゃ叩き、もちろん自分自身をぴしゃぴしゃ叩き、
コマーシャルのフレーズや、「タタイチャダメデショ!」というような言葉を叫んでいる。
真っ赤なヒモを新体操のように振り回している。

台所に入り、強烈にすっぱい梅干をいくつも欲しがり、、、カギを開けて脱走未遂
、、、、、、この行動の繰り返し。


それを見ていた あるお母さん(そこのお子さんは知的障害はあるけど自閉症はないらしい)が、
不思議そうに、

「あんなにひどく、自分を叩いて痛くないのかな?なぜ叩いちゃうんだろう?
テレビの音、自分自身はうるさくないのかな?」


といわれる。(非難とか苦情ではなく、さも、不思議だ、という風に)


私は、「よくわからないけど、私はこう思う。

あの子は、刺激が絶えず必要で、刺激がないと不安なんじゃないかな?

触覚、視覚、味覚に聴覚、
どれもが強烈に刺激されてないと不安なんだと思う。

言い方を替えると、それらを感じる力が よわいのかも。

だからわたしたちには強烈すぎる刺激でも あの子には、物足りないんじゃないかな。

うちの1号は逆で、音も聞こえすぎ、触覚も敏感すぎ、味覚も感じすぎて、

ちょっとの刺激で すぐにいっぱいいっぱいになって 耐えられなくなるんだけど、
でも、二人とも、鈍すぎるか鋭すぎるかというだけの違いで、
とっても共通してる と思うんだ。

そういう 感覚が普通の人とえらく違うみたい、という感じが「自閉症」という言葉で言われてるけど
同じ名前でも、まったく違う子どもたち ということになってて、、、」

という話しをしていたら、そのこのお母さんが現れた、

片時も目が離せない子どもさんに、ホントに疲れ切った様子だった。

ちょっと見てるだけの私たちでも、「これは数時間でも、付き合いきれないかも、、、どうしよう。」と思うくらいだったから、、、


「一番困るのはテレビの音なの。全開にしちゃうから苦情が来るし、
”ホント、すみません、でもこういう障害のある子で、今教えてるんですけど
なかなか”、、、って説明して、、、でもいつの間にか、周りが全部引っ越しちゃって、、、
うちのせいかも、、、

ほかの事は何とか、ね。でも、音だけは、私自身がつらすぎるの。

で、、、ある先生(自閉症の子を扱うのがうまい)が、

「おかーさん、うるさすぎるなら、耳栓つけてみて。
そしたら好きなだけ音大きくさせられるでしょう。」
といってくれたから そうしたの。」


「ウン、で、どうだった?」みんな興味津々。

「うん、でもね、まったく音が聞こえないっていうのは、
私にとっては、逆に とっても怖いの、、、

だから、せっかくそういってくれた先生には悪くていえないけど、
耳栓は 何分もつけてられなくて、しないでいるわ、


だから、まだ テレビの音に 悩んでいるの。」



彼女は気づいているだろうか、先生が「耳栓を試したら」といった理由に?

子ども自身が、いつも、そういう音の感じにくい状態にいるのかも知れないよ、

だからテレビの音を爆音にするのよ、一度その身で、彼の不安を感じて体験してみては?

音だけじゃなく、すべての刺激に対して、、、。

というアドバイスだったんじゃないかな、と私は思う。


もちろん、お母さんを責めてるわけではない。
障害はお母さんのせいじゃないし、
私だって、一晩中暴れる子供に 一日だって付き合えないだろうし、
お母さんはそれから逃れられないでいる。何年も、もしかしたらこの先も。

ほかの兄弟だっているし 近所にも申し訳ないと小さくなってるし、

まだ20代かな?若くてきれいなひとなのに、「白髪がいっぱい増えた」といっている。